Literature
「まもる、自分のおもちゃは自分でまとめなさいよ」
「はぁい」
はじめての引っ越しを控えたまもるの心はワクワクしていた。これから生活環境が変わる。この部屋とも、このリビングとも、このベランダとも、このお風呂とも、このトイレとも、今日でお別れ。生活する場所が変わるという未知の体験を前に心が高揚していた。
自分の荷物をまとめたまもるがリビングに行くと、そこにはたくさんの段ボール箱があった。一個一個丁寧に梱包された段ボール箱には、それぞれ黒のマジックペンで文字が書かれていた。『食器類(ワレモノ)』『まもる服類』『体重計・ハンガー・洗濯用品』『お父さん夏服』『お母さん夏服』『コート全般』『思い出写真アルバム』など、母親の独特なミミズ文字で大きく書かれていた。少し離れたところに置いてあった大きめの段ボール箱が、まもるの目に止まった。そこにはミミズ文字でこう書かれていた。
『おばあちゃん(生もの)』
まもるは少し恐怖を覚えた。そういえば今朝からおばあちゃんの姿を見ていない。嫌な想像をしてしまい呼吸が荒くなったまもるは、父と母がご近所の挨拶周りに出掛けている隙に、『おばあちゃん(生もの)』と書かれた段ボール箱を開けた。すると、まもるが全く予想していなかったものが目に飛び込んできた。
まもるは一言も言葉を発することなく、段ボール箱の蓋をし、近くにあった黒いマジックペンを手に取った。ミミズ文字の『おばあちゃん(生もの)』を二重線で消し、その横に小学生特有の角張った文字でこう記した。
『おじいちゃん(生もの)』